独自に新生児マススクリーニング体制を構築する愛知県での取り組み

(写真:Adobe Stock)

独自に新生児マススクリーニング体制を構築する愛知県での取り組み

2022.3.24(配信元:ステラ・メディックス)

 愛知県では有料の新生児マススクリーニング実施体制が独自に構築されている。ポンペ病、重症複合免疫不全症(SCID)、ファブリー病、ムコ多糖症I型、II型に加え、2021年4月からは副腎白質ジストロフィー、重症複合免疫不全症を起こす疾患であるアデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA欠損症)も含めて、検査対象は計7疾患になった。藤田医科大学 医学部 小児科学 教授の伊藤哲哉先生のお話をもとに、早期診断と早期治療の実現を目指す愛知県での新生児マススクリーニングの実施体制について解説する。

藤田医科大学、名古屋大学と県の外郭団体が検査や治療を担う

 日本では1977年に公費による新生児マススクリーニングが開始され、愛知県においても同時期に導入された。現在、同県では公費で実施する新生児マススクリーニングに加えて、有料スクリーニング検査システムを構築している。具体的には、出産施設で説明と採血を行い、愛知県健康づくり振興事業団という県の外郭団体が産婦人科から採血された濾紙血を受け取って検査し、結果を出産施設に報告している(下図参照)。

図・愛知県における先天代謝異常症 新生児マススクリーニング検査体制(提供:藤田医科大学医学部小児科学教授 伊藤 哲哉先生)

図・愛知県における先天代謝異常症 新生児マススクリーニング検査体制

 同県では、先天代謝異常症の専門的な診療体制を整備しているのは藤田医科大学の1か所であるため、出産施設で陽性患者が見つかった場合には藤田医科大学病院に紹介され、精密検査と治療を受けることになる。藤田医科大学では精密検査と治療を行っているが、ここでも愛知県健康づくり振興事業団が精査依頼を受け、同病院に検査結果を返す体制となっている。

 治療法の開発や検査法の進歩、検査費用や医療費、費用対効果のバランスの観点から、新生児マススクリーニングの検査を公費でどこまで実施すべきか、各都道府県で議論がなされてきたが、2014年に全国の都道府県と政令指定都市でタンデムマス・スクリーニングが開始され、公費での対象疾患は20疾患に拡大されている。

 愛知県ではこれら20疾患に加えて、有料スクリーニングシステムを運営している。九州で2010年代から追加スクリーニング検査を手掛けている、熊本大学大学院生命科学研究部 小児科学講座 教授 中村公俊 先生の指導も受けながら、検査体制の構築を進めてきた。

 2017年4月からポンペ病と重症複合免疫不全症(SCID)の2つの疾患の検査を開始し、2019年4月からファブリー病とムコ多糖症I型、II型を追加した。SCIDのマススクリーニング検査は全国初の試みであった。さらに2021年4月から副腎白質ジストロフィー、重症複合免疫不全症を起こす疾患であるアデノシンデアミナーゼ欠損症を増やし、検査対象は計7疾患になった。

図・愛知県における新規NBS検査体制(提供:藤田医科大学医学部小児科学教授 伊藤 哲哉先生)

図・愛知県における新規NBS検査体制

 愛知県では公費で採取した濾紙とは別の濾紙に、公費で採取する量の半分となる2スポットの検体を採取しており、費用は家族による負担となっている。検査や運営は愛知県健康づくり振興事業団が行い、精査については藤田医科大学がムコ多糖症などの代謝疾患を、また名古屋大学が重症複合免疫不全症の免疫関連疾患、副腎白質ジストロフィーを担当している。

図・検査体制(提供:藤田医科大学医学部小児科学教授 伊藤 哲哉先生)

図・検査体制

 検査を受けていただくための啓発活動も活発に行われており、産婦人科に掲示できる啓発ポスターを作成し、愛知希少疾患ネットワークのホームページでも検査の内容や疾患の解説を掲載している。同県には海外からの移住者も多いことから外国人保護者向けの多言語対応のニーズが高い。よって、ダウンロード可能なパンフレットは英語、中国語、ポルトガル語、タガログ語のバージョンも揃えている。外来での放映向けに15分ほどの検査啓発のための動画を用意し、DVDのほかYouTubeでも閲覧できるようにしている。

 2017年に89施設から始まった検査は、2021年3月までに106施設に広がり、着々と実績を蓄積している。同県で公費検査を実施している施設のうち、追加スクリーニング検査を実施している協力施設は約70%に広がった。2020年度は公費検査が5万5080件実施され、そのうち協力施設で行われた検査は4万1979件だった。さらに協力施設で行われた追加スクリーニング検査は3万1657件となった。協力施設で説明を受けた妊婦さんの75%が追加スクリーニング検査を受けており、愛知県内で生まれた新生児の6割くらいに至っている。

図・検査実績(提供:藤田医科大学医学部小児科学教授 伊藤 哲哉先生)

図・検査実績

 なお、2020年度までに診断した例はポンペ病2例、ファブリー病8例、ムコ多糖症II型2例、SCID2例、SCIDではないPID5例である。

 以上、愛知県での検査体制をまとめると、治療法と検査法の進歩によって新生児マススクリーニングの対象疾患は拡大し、11万件以上の新規検査を実施し治療開始につなげていることになる。ムコ多糖症Ⅱ型においては中枢神経系への治療効果が期待できる治療法も開発されており、先天代謝異常症の早期診断と治療の重要性が増している。積極的な新生児マススクリーニングが求められている。

監修:藤田医科大学医学部小児科学教授 伊藤 哲哉先生

伊藤 哲哉(いとう てつや)先生 藤田医科大学医学部小児科学教授

1989年、名古屋市立大学医学部を卒業。2004年、名古屋市立大学助手。2014年より現職。

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