循環器科において診断の契機となり得る症状・所見
- 心弁膜症(特に僧帽弁、大動脈弁)
ムコ多糖症では、グリコサミノグリカン(GAG)を分解する酵素の欠損によりGAGが弁膜や心筋、冠動脈、刺激伝導系などに蓄積し、弁膜・心筋障害、弁膜症、不整脈、冠動脈病変が生じます1)。
ムコ多糖症Ⅰ型とⅡ型は、特に重篤な心病変を呈する病型であることが知られています2-4)
心病変の特徴
ムコ多糖症の病型にかかわらず頻度が高い心病変として、僧帽弁閉鎖不全(mitral regurgitation;MR)や僧帽弁狭窄(mitral stenosis;MS)を呈する僧帽弁肥厚、次いで大動脈弁閉鎖不全(aortic regurgitation;AR)などを呈する大動脈弁疾患があります1)。
ムコ多糖症Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型、Ⅵ型、Ⅶ型の患者計28例の心エコー図所見の後ろ向き検討では、左室の弁膜症、心室肥大、肺高血圧が比較的頻度の高い心エコー図所見であること、また、心血管系の病変はデルマタン硫酸の蓄積と関連していることが示されています5)
心弁膜症の頻度
ムコ多糖症Ⅰ型のレジストリー登録症例987例の集計において、重症型(601例)の48.9%、軽症型の67.7%(127例)、中間型(227例)の59.0%に、心弁膜症が認められています6)。
ムコ多糖症Ⅱ型のレジストリー登録症例263例(平均年齢13.5歳)の集計において、56.9%の症例に心弁膜症が認められています7)。
ムコ多糖症Ⅱ型患者102例の自然歴の検討において、心弁膜症を有する患者は63%で、中でもMRとARの重症度が高いことが示されています8)。
心弁膜症に対する外科的処置
重度の心弁膜症に対しては、僧帽弁置換術(mitral valve replacement;MVR)や大動脈弁置換術(aortic valve replacement;AVR)などの手術療法が行われます1)。
文献
- 藤原優子. 循環器の障害. 折居忠夫ほか編. ムコ多糖症UPDATE. イーエヌメディックス; 2011. p.31-34.
- Wippermann CF. et al. Eur J Pediatr 154(2): 98-101, 1995.
- Dangel JH. Eur J Pediatr 157(7): 534-538, 1998.
- Rigante D. et al. Cardiology 98(1-2): 18-20, 2002.
- Leal GN. et al. Cardiol Young 20(3): 254-261, 2010.
- Beck M. et al. Genet Med 16(10): 759-765, 2014.
- Wraith JE. et al. Genet Med 10(7): 508-516, 2008.
- Kampmann C. et al. J Pediatr 159(2): 327-331.e2, 2011.