ムコ多糖症とは 病型と臨床像

病型と臨床像

ムコ多糖症の症状は、病型ごとに異なります()。また、症状の出現時期や進行速度は、同じ病型であっても、残存酵素活性の違いにより患者さんごとに異なります。

表・ムコ多糖症の臨床症状(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ型)

表・ムコ多糖症の臨床症状

各病型の病因と臨床像

ムコ多糖症Ⅰ型 1-4)

ムコ多糖症Ⅰ型はライソゾーム酵素α-L-イズロニダーゼの欠損、あるいは活性低下により、グリコサミノグリカンのうちデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が細胞内に過剰蓄積することによって発症します。

早期に発症し、中枢神経症状を伴う重症型はハーラー症候群、中枢神経症状を伴わない軽症型はシャイエ症候群、重症型と軽症型のほぼ中間の臨床像を示す中間型はハーラー・シャイエ症候群とも呼ばれます。

ムコ多糖症Ⅰ型重症型の代表的な症状・所見として、低身長、特徴的な顔貌、臍・鼠径ヘルニア、関節拘縮、骨変形、肝脾腫、心弁膜症、閉塞性呼吸障害、精神発達遅滞、神経学的退行、異所性蒙古斑、皮膚の肥厚、反復性中耳炎、難聴、扁桃・アデノイド肥大、角膜混濁などがあります。

ムコ多糖症Ⅰ型軽症型は知的障害を伴わず、緩徐に進行する関節拘縮、骨変形、心弁膜症などを呈します。
ムコ多糖症Ⅱ型 1,2,5)

ムコ多糖症Ⅱ型はハンター症候群とも呼ばれ、ライソゾーム酵素イズロン酸-2-スルファターゼの欠損、あるいは活性低下により、グリコサミノグリカンのうちデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が細胞内に過剰蓄積することによって発症します。中枢神経症状を伴う重症型と、伴わない軽症型に分類されます。

ムコ多糖症Ⅱ型の代表的な症状・所見として、低身長、特徴的な顔貌、臍・鼠径ヘルニア、関節拘縮、骨変形、肝脾腫、心弁膜症、閉塞性呼吸障害、精神発達遅滞、神経学的退行、異所性蒙古斑、皮膚の肥厚、反復性中耳炎、難聴、扁桃・アデノイド肥大などがあります。多くはムコ多糖症Ⅰ型重症型の症状・所見と共通していますが、Ⅰ型にみられる角膜混濁はⅡ型ではみられません。
ムコ多糖症Ⅲ型 1,2,6)

ムコ多糖症Ⅲ型はサンフィリッポ症候群とも呼ばれ、グリコサミノグリカンのうちヘパラン硫酸を分解するライソゾーム酵素の欠損、あるいは活性低下により、ヘパラン硫酸が細胞内に過剰蓄積することによって発症します。

ムコ多糖症Ⅲ型は、欠損しているライソゾーム酵素の違いにより、A型〔ヘパランN-スルファターゼ(スルファミダーゼ)欠損〕、B型(α-N-アセチルグルコサミニダーゼ欠損)、C型(アセチル-CoA:α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ欠損)、D型(N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ欠損)に分類されます。

ムコ多糖症Ⅲ型は、他の病型と比較すると身体上の所見は軽微で目立たず、進行性の重度精神発達遅滞を特徴とします。
ムコ多糖症Ⅳ型 1,2,7)

ムコ多糖症Ⅳ型はモルキオ症候群とも呼ばれ、欠損しているライソゾーム酵素の違いにより、A型(N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ欠損)とB型(β-ガラクトシダーゼ欠損)に分類されます。グリコサミノグリカンのうちコンドロイチン硫酸とケラタン硫酸が主に軟骨や角膜に蓄積することによって発症します。

ムコ多糖症Ⅳ型の代表的な症状・所見として、低身長、骨変形、心弁膜症、難聴、角膜混濁などがあります。精神発達遅滞はみられません。また、他の病型と異なり、関節の弛緩、過伸展が認められます。
ムコ多糖症Ⅵ型 1,2,8)

ムコ多糖症Ⅵ型はマロトー・ラミー症候群とも呼ばれ、ライソゾーム酵素N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(アリルスルファターゼB)の欠損、あるいは活性低下により、グリコサミノグリカンのうちデルマタン硫酸が細胞内に過剰蓄積することによって発症します。

ムコ多糖症Ⅵ型の代表的な症状・所見として、特徴的な顔貌、関節拘縮、骨変形、肝脾腫、心弁膜症、角膜混濁などがあります。身体所見上はムコ多糖症Ⅰ型に類似していますが、精神発達遅滞はみられません。
ムコ多糖症Ⅶ型 1,2,9)

ムコ多糖症Ⅶ型はスライ症候群とも呼ばれ、ライソゾーム酵素β-グルクロニダーゼの欠損、あるいは活性低下により、グリコサミノグリカンのうちデルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸が細胞内に過剰蓄積することによって発症します。

ムコ多糖症Ⅶ型は、ムコ多糖症Ⅰ型・Ⅱ型の重症型に類似した症状・所見を呈します。
ムコ多糖症Ⅸ型 1)
ムコ多糖症Ⅸ型(Natowicz症候群)は極めてまれな病型で、日本国内では報告されていません。ヒアルロン酸を分解するライソゾーム酵素ヒアルロニダーゼの欠損により生じますが、確立した症状・所見は明らかではありません。

文献

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