わが国におけるムコ多糖症II型の臨床像

(写真:Adobe Stock)

わが国におけるムコ多糖症II型の臨床像

2022.2.17(配信元:ステラ・メディックス)

 ムコ多糖症II型は、ムコ多糖症のなかでもわが国で最も多く見られる病型であり、患者によって臨床症状や予後が大きく異なる。国立成育医療研究センター遺伝診療科診療部長の小須賀基通先生のお話をもとに、ムコ多糖症II型の臨床像について解説する。

ムコ多糖症の各病型の特徴

 ムコ多糖症とは、特に結合組織や軟骨、腱の重要な成分となるムコ多糖(グリコサミノグリカン、以下GAG)を分解するライソゾーム酵素が活性低下・欠損することで、GAGが過剰に蓄積する疾患である。先天性代謝異常症であるライソゾーム病に分類される。

 GAGには、皮膚や血管、心臓弁に存在する「デルマタン硫酸」、軟骨や椎間板、角膜に存在する「ケラタン硫酸」、細胞表面や神経細胞に存在する「ヘパラン硫酸」、軟骨に存在する「コンドロイチン硫酸」、滑液や結合組織に存在する「ヒアルロン酸」がある。

 病型はムコ多糖症I型~IX型まであり、それぞれで欠損する酵素が異なる。そのため蓄積するGAGも病型によって変わる。ムコ多糖症I型とII型ではデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が主に蓄積し、ムコ多糖症III A-D型はヘパラン硫酸、ムコ多糖症IV A,B型ではケラタン硫酸が蓄積する。

 デルマタン硫酸は結合組織に、ヘパラン硫酸は神経細胞に主に存在するため、これらが蓄積する病型では身体や中枢神経の症状を伴う。一方、ムコ多糖症IV型やVI型ではヘパラン硫酸が蓄積せず、中枢神経症状が見られることはない。

ムコ多糖症の過半数がII型に該当する

 最も発症する割合が高いのはII型であり、わが国におけるムコ多糖症の約60%が該当する。さらに、その約60%が重症型にあたり、中枢神経症状を呈する。発症頻度は10万人に1人程度と推定されている。

 GAGが徐々に全身に蓄積していく疾患であるため、進行性で多彩な症状が認められる。また、遺伝性疾患でもあり、女性が保因者となり男性にのみ発症するX連鎖劣性(潜性)遺伝である。

 ムコ多糖症II型は全身性の疾患で、様々な臓器に障害を生じる。比較的よく見られる症状として、蒙古斑や肝脾腫、特異な顔貌、弁膜症、関節拘縮、中耳炎、呼吸器障害、精神運動の発達遅滞などがある。このほかによく知られる症状として、下記の表の症状が挙げられる。

図・ムコ多糖症II型の合併症(提供:国立成育医療研究センター遺伝診療科 診療部長 小須賀 基通先生)

図・ムコ多糖症II型の合併症

 ムコ多糖症II型は全身性かつ進行性であり、その臨床症状や予後は患者によって大きく異なる。軽症型(mild/attenuated)は緩徐に進行し、精神運動の発達遅滞はなく、骨変形、関節拘縮、弁膜症、肝脾腫などの軽い特徴が見られる。一方の重症型(severe)は早期に進行し、精神運動の発達遅滞が強く、肝脾腫、骨変形、中耳炎などの全身症状も重いのが一般的である。

 軽症型においては、精神発達遅滞がなく通常の生活を送れるが、関節拘縮や手根管症候群、難聴、弁膜症などがQOL(Quality of Life)に影響する。重症型では、全身の症状に加え、精神発達遅滞を伴う。認知機能の低下(退行現象)と慢性的な呼吸機能不全に加え、摂食・嚥下障害、咳嗽反射低下によって誤嚥性肺炎や突発的な窒息のリスクも高まり、生命予後に影響する。予後の改善のためには、全身の症状に対する治療に加え、中枢神経症状の進行抑制も重要となる。

図・ムコ多糖症II型の臨床症状(提供:国立成育医療研究センター遺伝診療科 診療部長 小須賀 基通先生)

図・ムコ多糖症II型の臨床症状

乳児期までは症状が軽微で診断が困難

 ムコ多糖症II型は進行性の疾患であり、出生時にはほとんど症状が見られない。その例外となるのが、蒙古斑とヘルニアである。蒙古斑は背中一面に広範囲に濃青色で見られ、肩や足、くるぶしなどにも好発する。ヘルニアでは臍ヘルニアと鼠径ヘルニアが見られ、診断前の6カ月頃~1歳前に手術を受けていることが多い。

 蒙古斑とヘルニアの特徴を除くと、基本的に新生児期や乳児期におけるムコ多糖症II型の症状は軽微であるため診断は難しい。

 乳幼児期以降になると、多彩な症状が徐々に現れる。具体的には、特異な顔貌、精神運動の発達遅滞、繰り返す中耳炎、難聴、心雑音、弁膜症、関節拘縮、いびき、睡眠時無呼吸、骨の変形、肝脾腫による腹部膨隆といった症状が次々と見られるようになる。

 重症型では早い時期に症状が現れはじめる。中枢神経症状を伴い、身体の症状、特に予後に関わる気道や気管の狭窄が強く出現し、適切な治療をしなければ10~20代で死に至る。

 一方の軽症型では病状がゆっくり進行するため、学童期、なかには成人期になって診断される患者も存在する。関節拘縮や低身長、心雑音はあるが、精神運動の発達遅滞はなく、症状も軽微で生命予後は比較的良好といった表現型が見られる。

 ただし、ムコ多糖症II型を1つの表現型で捉えるのは難しく、それぞれの患者によって進行度と重症度は異なるので注視が必要である。

 新版K式発達検査で発達年齢変化を評価すると、ムコ多糖症II型患者では基本的に2歳あたりですでに発達の遅れが目立ちはじめ、特に重症型(早期進行型)の場合は3~4歳で発達年齢が頭打ちになり、4~5歳で退行が始まっている。

図・新版K式発達検査によるMPSII患者の発達年齢変化 1)(提供:国立成育医療研究センター遺伝診療科 診療部長 小須賀 基通先生)

図・新型K式発達検査によるMPSII患者の発達年齢変化

呼吸器症状の増悪が予後に大きく影響する

 予後に関わる症状では呼吸障害が見られ、なかでも気管狭窄や気管変形が多い。重症型(早期進行型)では(a)の画像のように気管が平らになり、狭窄する。一方、(c)の画像では比較的気管の形態は保たれているが、変形の進行が見て取れる。気管が変形して気管狭窄が進行し、誤嚥性肺炎や嚥下障害、咳嗽反射の低下などで呼吸不全が進むと、生命予後に大きく影響する。

図・胸部単純CTによる気管径計測(提供:国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科 診療部長 守本 倫子先生)

図・胸部単純CTによる気管系計測

 また、喉頭蓋の変形も見られる。喉頭蓋や披裂部が軟化して、壁にGAGが蓄積して浮腫化する。最終的には、呼吸時に披裂部と唾液が気管に引き込まれるようになる。気管狭窄と併せて呼吸の状態が増悪するのが重症型の症状の一つである。

 呼吸器症状について整理すると、GAGの沈着や骨の変形などにより気道の狭窄が生じる。その他の機序としては、中枢神経の障害により、誤嚥性肺炎や嚥下障害などが起こりやすくなり、呼吸状態に影響を及ぼし、予後を左右する。最終的に気管切開を行うケースも少なくないが、全身麻酔のリスクもあり、気管切開後に気道に肉芽が生じて症状が進行する例もある。

図・ムコ多糖症と呼吸器症状 2)(提供:国立成育医療研究センター遺伝診療科 診療部長 小須賀 基通先生)

図・ムコ多糖症と呼吸器症状

ムコ多糖症II型の周術期における注意点

 ムコ多糖症II型の手術には困難を伴うが、その理由は大きく2つある。一つは、骨の変形で頸椎の亜脱臼が起きやすく、脊髄圧迫のリスクがあること。もう一つは、鎮静や麻酔のリスクが大きいこと。特に舌や扁桃腺が大きく上気道閉塞が起きやすいこと、下気道においても、開口障害や気管狭窄で挿管が困難なこと、抜管時に喉頭浮腫が起きる可能性があることがある。

 ムコ多糖症II型の全身麻酔および手術に関しては、事前に耳鼻科、放射線科、麻酔科にもコンサルトをし、一般的な術前の注意事項と併せて、ムコ多糖症に特有なリスクを検討した上で実施する必要がある。

監修:国立成育医療研究センター遺伝診療科 診療部長 小須賀 基通先生

小須賀 基通先生(こすが もとみち)先生 国立成育医療研究センター遺伝診療科 診療部長

1993年、新潟大学医学部を卒業。2001年、慶應義塾大学医学研究科大学院修了。2018年より現職。

文献

  1. Seo JH, et al. J Inherit Metab Dis. 24:100630, 2020. (PMID:23151682) を改変
  2. Berger KI, et al. J Inherit Metab Dis. 36(2):201-10, 2012. (PMID:23151682) を改変
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