「新生児マススクリーニングを拡充することで埋もれたライソゾーム病を見つけ出す」

福岡大学医学部総合医学研究センターの廣瀬伸一先生に早期診断を実現する意義を聞く

2021.10.13(聞き手:ステラ・メディックス 星良孝)

 新生児マススクリーニングを拡充する形でライソゾーム病検査の普及を進めてきた福岡県。継続的活動により病気の早期診断を促し、新生児の8割近くが検査を受けるようになった。

 普及に努めた福岡大学医学部総合医学研究センターの廣瀬伸一先生に早期診断を行う意義を聞いた。

福岡大学医学部総合医学研究センターの廣瀬伸一先生(撮影:田中好洋)

福岡大学医学部総合医学研究センターの廣瀬伸一先生。取材はリモートにより実施した。(撮影:田中好洋、以下同)

 「現在、福岡大学では毎週のようにライソゾーム病の患者さんが受診して治療を受けるようになっています。早く見つけて早く治療しようと医師の意識も変わりました」

 廣瀬先生は新生児マススクリーニングを拡充することでライソゾーム病の早期発見のための検査を広げてきた。そのことによって医療現場に起きた変化についてこう説明する。

ライソゾーム病の早期発見を促した

 1977年から国内で新生児の血液中のアミノ酸を測ることによるアミノ酸代謝異常症などの検査が行われてきた。1977年当初の対象疾患はフェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、ガラクトース血症、ヒスチジン血症の5疾患だったが、その後、クレチン症、副腎過形成症が対象に加わり、治療が不要と判明したためにヒスチジン血症は除外され、公費負担による検査の対象疾患は6疾患になった。さらに2014年からは全国の都道府県と政令指定都市においてタンデムマス・スクリーニングが開始され対象疾患は19疾患に広がっている。 1)

 そうした中で、2010年代に入って福岡県では全国に先駆けて任意検査としてライソゾーム病の検査を広げてきた。ライソゾーム病はかつて治療手段がなかったが、1990年代から2000年代にかけて酵素補充薬が登場して治療できるようになったことが大きな転機となった。

 ライソゾーム病には複数の疾患が含まれているが、ゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病のほか、ムコ多糖症I型、II型、IV型、VI型を適応とする薬が日本で1998年以降に認可された。酵素補充療法の治療成績を高めるためには早期治療が必要で、早期診断につながる新生児マススクリーニングが重要であると考えられた。

 「できるだけ早期に治療するためには生まれてすぐに検査を行うことこそが大切」と、廣瀬先生らはいち早く動き、このことが希少疾患の治療効果を高める上で功を奏した。

 福岡大学が中心となって2014年7月からパイロット検査としてファブリー病とポンペ病を対象疾患として8487件の検査を手掛けたのを皮切りに、実施件数を増やしてきた。2019年にはゴーシェ病とムコ多糖症I型とムコ多糖症II型を加えた5疾患を検査対象にした。

 2020年度にはライソゾーム病の検査件数が福岡で生まれる新生児の多くを占める3万5037件に上るまでになった。

 廣瀬先生らは各種ライソゾーム病の早期診断と早期治療を実現しており、2021年3月までの5年半の間に19万1932人の新生児に対して検査を行い、ファブリー病とポンペ病はそれぞれ15人と1人、ゴーシェ病とムコ多糖症II型はそれぞれ1人ずつ診断することができた。経過観察としているケースも含めると埋もれていたかもしれない病気の発見に貢献した形になる。

 従来、国内ではファブリー病は4万人に1人程度とされてきたが、廣瀬先生らの活動においては約7000人に1人程度の頻度で発見されているほか、ライソゾーム病の有病率の認識を改めるきっかけにもなった。 2)廣瀬先生は、「1970年代には国内においてライソゾーム病は頻度が低い疾患であると認識され、日常臨床の中で出会うことはないと教わることもりましたが、認識は変わってきています」と振り返る。

福岡県で検査を普及させた協力体制

 新生児マススクリーニングに任意検査となるライソゾーム病の検査を加えるためには、検査機関、産科、行政、家族など関係者の協力が欠かせない。福岡県で検査を広げられた背景には、こうした協力を円滑に取り付けられたこともある。

 検査対象をライソゾーム病へと広げていく上で、福岡県がとっていた新生児マススクリーニングの検査体制は都合が良かった。「他地域では行政単位で検査センターを持っていたのですが、福岡県や熊本県では1970年代から新生児マススクリーニングの検査を手掛けてきた団体、化学及血清療法研究所(化血研、現KMバイオロジクス)が集約して実施していました。そうした地の利もあって検査体制を拡充しやすいのは良いことでした」と廣瀬先生は振り返る。

 新生児マススクリーニングにおいては、新生児が生まれた直後に足の裏から血液を少量採取して濾紙血(ろしけつ)に浸透させて保存している。ライソゾーム病の検査を追加するためには、別の濾紙血を取ってもらう方法もあるが、新生児への負担を避けるために公費検査と同じ濾紙血の一部を融通してもらう方法を採用した。

 上記の検査プロセスを確立するために、産科では従来通りに濾紙血の取得の意義について理解をしてもらうほか、同じ濾紙血をライソゾーム病の検査にも使うことを理解してもらう必要があった。さらに、ライソゾーム病は公費負担の対象ではないため、追加負担の出費についての理解を得ることも大切だった。

 産科医師に加えて、助産師への情報提供も行ってきた。「採血するのは助産師さんであり、血液の採り方や保存法などの知識を得ようとしてくれます」と廣瀬先生は話す。産科医師と助産師の認識も得て産科へと輪が広がった。2014年度にパイロット試験で協力を得たのは福岡市の42施設だったのに対して、2020年度には126施設になり、県内の分娩取り扱い施設の大多数に普及している。

 廣瀬先生は、「産科の先生は希少疾患をいったん見つけて病気を認識すると、当事者意識が出てくるようになります。産科次第で早期診断が可能となるわけで、そのことで子どもに障害が出るか否かが決まりますから、大きな責任にもつながると考えています」と話す。

 このほか行政においても公費で得ている濾紙血の使用許諾を得る必要があり、廣瀬先生らが説明に当たってきた。

福岡大学医学部総合医学研究センターの廣瀬伸一先生

福岡大学医学部総合医学研究センターの廣瀬伸一先生

「産科の先生の理解で命が助かります」

 検査の同意に関わる母親および父親にも検査の意義を理解してもらう必要がある。近年は母親が産む子どもの人数が一人である場合が多く、初めての妊娠という母親も多い。公費負担の新生児マススクリーニングも含めて初めて聞くという家族も多い中で、理解をしてもらい検査に前向きになってもらう必要がある。そうして両親が検査の重要性を認識して事前に申し込めるように工夫している。

 契約施設において家族の検査希望率は92%に上っている。廣瀬先生は、「患者さんには病気の判明はつらいことですが、早期に発見できて治療を行えるようになったのは喜ばしいことです。いち早く治療を行えることで命を救えた子もいます。見つかっていなかったら亡くなっていた可能性もありました」と話す。

 廣瀬先生は、「92%でも十分ではないと考えています。病気が7000人に1人に見つかるとすると、同意しなかったところでは見逃しもあるはずです。8%くらいのお子さんは受けなくてもいいかというと、そうではなく、見落としたら、その人にとっては100%になります。成長してから病気が見つかるというケースを減らしていきたい」と述べる。

 啓発活動は非営利組織(NPO)「IBUKI」の活動の一環として進めてきた。IBUKIは、福岡大学において仮死状態で生まれた新生児の蘇生措置に関する技術講習を行っていた団体で、ライソゾーム病の啓発を活動に加えた形となった。パンフレットやウェブサイトでの情報発信など無報酬、手弁当で取り組んできたが、理解を得づらく苦労もあったという。

 廣瀬先生は、「皆さんの理解を得ることが難しくてやめようかと思うこともありました。そうした時に患者会の方がやってくださいと言ってくれたのは心強いことでした」と話す。「患者会の方々は、子どもの治療のタイミングを逃してしまった人も多く、新生児マススクリーニングの恩恵に預かれなかった方もいます。にもかかわらず、やってくださいと言ってくれた。そういう言葉があったから続けてこられた」と廣瀬先生は言う。

 その上で、廣瀬先生は、こう続けた。「医学の進歩によって治療薬が生まれてきています。しかしながら、いち早く病気を発見して、治療を適用しなければ手遅れになってしまいます。新生児医療に関わる産科医、小児科医は救える命に目を向けて、後遺症を残さないようにいち早く見つけ、治すのは責務であると考えています。ムコ多糖症II型においても血液脳関門を通過する薬剤が使えるようになり、中枢神経症状へのアプローチが可能となりました。新生児マススクリーニングの意義は大きいと思います」

 「今でも一歩間違えると、協力を得づらくなるのではないかという不安もあります。産科の先生に本当に役立つことを理解してもらうことで命が助かります。最終的には産科の先生に委ねられてきます」と廣瀬先生は強調します。

文献

  1. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2015: http://jsimd.net/pdf/newborn-mass-screening-disease-practice-guideline2015.pdf. 2021/10/6.
  2. Inoue T, et al. J Hum Genet. 58(8): 548-552, 2013. (PMID: 23677059)
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