ムコ多糖症II型の中枢神経症状とは 言葉の遅れをはじめとした特徴と早期診断と治療の意義

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ムコ多糖症II型の中枢神経症状とは 言葉の遅れをはじめとした特徴と早期診断と治療の意義

2021.8.6(配信元:ステラ・メディックス)

 ムコ多糖症II型では、言葉の遅れをはじめとして中枢神経症状が問題になる。中枢神経症状が顕著になるのは3歳以降とされ、早期の診断と治療が求められている。千葉県こども病院代謝科部長の村山圭先生による監修の下で中枢神経症状を解説する。

 ライソゾーム病は全身性の先天性の疾患となる。ライソゾーム病の1つであるムコ多糖症は、細胞内外に存在している「ムコ多糖」を分解するための酵素が欠損するために、ムコ多糖の分解ができず、細胞内外にムコ多糖が蓄積して、細胞機能障害や細胞死を来す疾患である。 1)

 ライソゾーム病の中には欠損する酵素の種類によって複数の疾患に分かれている。

 ムコ多糖症II型においては、ムコ多糖を分解するための酵素のうち、ムコ多糖の「デルマタン硫酸」と「ヘパラン硫酸」を分解する「イズロン酸-2-スルファターゼ」が遺伝的に欠損している。デルマタン硫酸は皮膚や血管、心臓の弁などに多く存在し、ヘパラン硫酸は細胞膜に多く存在すると分かっている。 1,2)

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中枢神経症状はなぜ起こるのか

 中枢神経症状は、ムコ多糖が神経系にも蓄積するために起こる。ライソゾーム病全般に言えるが、ムコ多糖症II型による臓器の障害はさまざまな形で現れ、神経系、循環器系、呼吸器系、骨および運動器系などに及ぶ。 2)

 ムコ多糖症II型の神経系への影響については、間接的に脳の神経細胞の障害が起こることが問題になると考えられている。神経細胞においてムコ多糖の代謝は活発ではないのだが、もともと細胞膜に多く分布しているヘパラン硫酸の蓄積があり、そのことが他の代謝にも影響すると考えられている。 3)

中枢神経症状で典型的な発語の遅れ

 ムコ多糖症II型の典型的な症状としては、知的障害や聴覚障害によって起こる言葉の遅れなどがある。症状の出方が個人によって大きく異なり、軽症から重症までさまざまな発達の出方が存在している。 3)

 最も軽症の場合は、言語発達に異常はなく、就学や就労に差し支えないこともある。 3)

 軽症の場合には、3歳くらいまで知能の発達が健常児と変わらず、初めて言葉を使えるようになる時期も健常児と同じであるにもかかわらず、3歳以降に知能の発達が滞ってくるようなケースが一般的に見られる。この場合には、6歳の時点での知能が健常児の3歳時点の水準にとどまるような発達の程度になってくる。 3)

 重症の場合には、2語文を使えるようになるのが3歳以降まで遅れ、なんとか3語文までは使えるようなケースがあるほか、2歳を過ぎるまで1語も発しないというケースもある。より重症なケースにおいて、意味を持つ言葉(有意語)の習得が見られないこともある。 3)

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知能発達の遅れ発語の遅れ以外の症状としても現れる

 知能発達の遅れは、発語の遅れ以外の症状としても現れる。記憶できない、怒りっぽくなる、落ち着きがなくなる、暴力的になるといった形の症状となる。

 知能発達の遅れと不眠症状が併発することで、行動面での異常が一層出やすくなる可能性もあります。扁桃肥大が生じることがあるのが特徴で、そのために呼吸しづらく睡眠時無呼吸を引き起こし、結果として不眠症状が現れることもある。 4)

 こうした中枢神経症状は、一般的な発達遅滞としてフォローされてしまうことも多く、症状だけでムコ多糖症II型を見極めるのは難しく、見落とされやすく注意を要する。診断には、中枢神経症状に加えて、蒙古斑のほか、臍ヘルニア、X線検査での骨変形の有無などといった所見も併せて確認することになる。

 このほか診断の着眼点としては、中枢神経症状がある場合には、難聴のために、食事や入浴、更衣、トイレなどで苦労していたり、集団生活の中で作業が遅れがちであったりするところから疾患を疑うこともある。 3)

 ムコ多糖症II型の症状の特徴から、小児のアデノイドや睡眠時無呼吸を身近に見る耳鼻咽喉科、鼠径ヘルニアや臍ヘルニアの治療に当たる小児外科、あるいは小児科を受診するこどもの中にムコ多糖症II型のケースが存在している可能性があると考えられる。

中枢神経症状の個人差と遺伝子変異との関連

 イズロン酸-2-スルファターゼの遺伝子変異が、一部のアミノ酸が変化する「ミスセンス変異」のケースと、アミノ酸の欠損などが起こる「ヌル変異」のケースがあると分かっている。中枢神経症状は、ヌル変異の方が顕著に表れ、知的機能低下の程度が大きい。 5)

 治療の面では、造血幹細胞移植によって中枢神経症状の改善につながる可能性があると考えられている。そして5月から処方可能になるイズカーゴは早期に投与することで、中枢神経症状の進行を抑制する効果が確認されている。

 ライソゾーム病の症状は時間とともに進行することが多く、中でもムコ多糖症II型の症状は現れるまでに時間がかかり、目立ちづらいことが多く疾患の見逃しにもつながってくる。例えば、難聴の小児にムコ多糖症II型が隠れていることがある。難聴もあって、発語が遅れ、その後ムコ多糖症II型と判明するようなケースもある。 3)

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監修:千葉県こども病院代謝科 部長 村山 圭先生

文献

  1. D’Avanzo F, et al. Int J Mol Sci. 21(4): 1258, 2020. (PMID: 32070051)
  2. Aygören-Pürsün E, et al. Orphanet J Rare Dis. 99: 9, 2014. (PMID: 24996814)
  3. 衛藤義勝. ライソゾーム病 最新の病態、診断、治療の進歩: 68-71, 190-196. 診断と治療社. 2011.
  4. 衛藤義勝. 別冊「医学のあゆみ」ライソゾーム病のすべて: 31-36, 127-133. 医歯薬出版. 2019.
  5. Seo JH, et al. Mol Genet Metab Rep. 24: 100630, 2020. (PMID: 32775211)
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